市民劇場 VOL.202 豊橋演劇鑑賞会会報 (2007年11月21日発行)
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■私と鑑賞会 |
妻に勧められて入会してから、2、3年になるが、今も強く印象に残っていることがある。
そのことを書く前に、関連した事柄として、次のことから筆を進めたい。
平幹二朗氏の「オセロー」の舞台装置搬入の助っ人を頼まれ、劇団員の指図に従い、トラックに隙間なくぎっしり積まれた装置を、それぞれの位置に仮置きし、組み立てまで手伝ったが、この手伝いの合間・合間に、舞台の広さや吊り下げるロープやウエイトなどを、ある意味感心ながら観察していた。
数世紀前のイタリアの港湾都市を現出させる舞台は、重厚で大きな鉄の扉も、赤茶けた錆や一部破損したリベットの跡さえも、描きこまれて、関係者の思い込みが感じられた。 これとは正反対に、私がここに書こうとしている「強く印象に残る」ことは、日本の歌謡曲の出始めの頃、一世を風靡した「あゝ東京行進曲」のことである。大変失礼なことではあるが、平幹二朗氏の劇団に比べれば、多分名もない弱小劇団なのだろうと推測するが、その舞台は、黒を基調にして、立方体の黒い箱と白い紐が主役で、「オセロー」と比べたら、月とスッポン、当然その分費用もぐっと安上がりになっていることは言うまでもない。金を掛けずに工夫する、そこにプロの知恵を見せてもらった。もう一度、何を見たいかと聞かれたら、この「あゝ東京行進曲」を挙げたいと思っている。 谷寛治 |
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■中部・北陸ブロック中間総括会議報告
〜10月20日(土)〜21日(日)於となみ〜 |
10月20日〜21日の2日間、となみで中部・北陸ブロック中間総括会議が開かれました。17団体の役員・事務局ならびに劇団の制作者ら約90名が集まって開かれました。
中部・北陸ブロックの過去1年間の動きは、サークル数、会員数の減少が鈍化しているものの、組織の後退に歯止めがかかっていない状況で、いまだに2万名を割っています。ブロックの活動方針には「前例会を上まわるサークル数・会員数で例会を迎えよう」という課題が掲げられています。この方針のもとこの課題を着実に達成しているのは「となみ」だけです。豊橋は13例会連続でサークルを増やし続けていますが、会員数は減らしています。前進している団体とどこが違うのか、そこを探る会議でもありました。大きな違いとして浮び上がってきたのは、運営サークルの活動において、例会に向き合う姿勢についてです。「となみ」は、運営サークルの活動の目的が例会を成功させることであり、自分たちがかかわる例会作品について、その魅力を徹底的に研究・追究して、そのことを広げています。運営サークルにとってそれぞれのサークルでその魅力を広げるには何ができるのか、この視点を豊橋もきちんと持ちたいと思いました。
企画づくりの問題については、統一例会をこれから如何につくり上げていくかが議論の中心でした。17団体が足並みを揃えて同じ作品を例会にしていくことが困難になってきたからです。統一例会によってブロックで鑑賞運動が進められるようになったものの、組織活動と企画活動がうまく結びついていないことが見えてきました。鑑賞会のオリジナルな部分と素晴しさを再確認する必要があると恩いました。 (大井)
■地人会の解散について わたしたちの鑑賞運動にとって、最近とても悲しく残念な出来事が二つありました。一つは演劇鑑賞運動の発祥の地であり、60年近い歴史を刻んで来た大阪労演が解散したこと。二つ目は、数々の名舞台を創り披露してくれた地人会が今年いっぱいで解散してしまうことです。地人会は演劇界屈指の演出家・木村光一氏の主宰する演劇制作体です。豊橋では31年の歴史の中で地人会の作品を23作品例会にして、その他に木村光一演出では、文学座やこまつ座の作品として10作品例会にしました。『はなれ瞽女おりん』 『ラヴ』 『越前竹人形』など心に残る舞台は数々あります。水上勉、官本研、井上
ひさし、斉藤憐、山田太一氏とともに、流行にこびることなく新劇の伝統を継承した新しい演劇世界を切り拓いてきただけに残念でなりません。今後この遺産をどう引き継ぐのかが私たちの課題でもあります。
■仲代達矢さん丈化功労賞を受賞
私たちの例会でもお馴染みで日本を代表する名優仲代達矢さんが文化功労者の称号を受賞しました。受賞発表の当日が特別例会、無名塾公演『ドン・キホーテ』の公演日と重なり、大いに盛り上りました。仲代さんはある新聞のインタビューの中で「僕の場合、役者としての究極の原点は、戦争反対、命は大切だという思いです。かつて築地小劇場で新劇が起こったころの、先達たちの抵抗の精神を若い人たちにどう伝えるかが、僕らの課題だと思います」と述べられています。今後も感動の舞台を一緒に創っていきたいですね。 |
2009年・魅力ある例会の実現を!
例会企画づくりの活動について |
9月5日(水)〜(金)の4日間、秋のサークル代表者会議を開きました。会議には、154サークル、160名(参加率=43%)
が参加しました。
今回は09年の例会企画について、中部・北陸ブロックの幹事会推せん作品5本の提案と企画づくりの経過を説明するとともに、過去1年間の例会について観た感想や印象深かった内容等々を語り合い年間例会のまとめを行いました。
ブロック幹事会推せん作品については、ミュージカル作品として劇団スイセイミュージカルの『サウンド・オブ・ミュージック』を1月例会に、3月例会は文学座の『初雷』、5月例会は俳優座の『三屋清左衛門残目録−夕映えの人−』、9月例会はこまつ座の『見おとうと』、11月例会には、民聾の『静かな落日』の5作品を提案し、作品の魅力を伝えるとともに、推せん作品に決まった経緯を説明しました。ミュージカル、時代劇、社会的テーマを盛り込み、人間や家族のあり方を斬新かつ感動的に描いている創作劇、さらには井上ひさし作品等々バラエティーに富んだ例会作品が提起されました。
また、7月例会については、この時点でブロック幹事会推せん作品が決まらず、劇団NLTの『パーヴィからの贈り物』と新たな提案としてエイコーンの
『令嬢ジュリー』の2作品が取り上げられて、どちらを例会にしていくか各団体で論議されていました。ブロック幹事会での長い論議を経て、17団体中10団体から要望のあったNLTの『ハーヴィーからの贈り物』を例会にしていくことに決まりました。
会議では、ミュージカル作品への要望が非常に高かったとともに、昨年例会にした『きょうの雨、あしたの風』で評価の高かった藤沢周平原作のドラマに期待が集まりました。
会議ではいくつかの問題点が指摘されました。一つは、ブロック幹事会で決めた作品をなぜもう一度サークルで討議しアンケートを提出するのか、という質問です。これは提案による合意をいかにつくり上げていくか、しかもサークルによる合意を民主的につくり上げていく大事な手続きであるわけですが、現在のやり方には不明確な部分もあり、こうした意見を参考に企画づくりのあり方をさらに改善していきたいと思います。
もう一つは、最近俳優の声が聞えないという感想が増えてきました。この点についても、例会に決まった劇団や創造団体と相談をして、できるだけ声の通る演劇空間がつくられるように善処していきたいと思います。
アンケートの結果は下記の表にまとめました。
企画づくりのためのサークルアンケート集約数
@アンケート提出数 216サークル
Aアンケート提出率 60%
ブロック幹事会推薦作品のアンケート結果
開催月 |
劇 団 ・ 作 品 名 |
支 持 |
不支持 |
1〜2月 |
劇団スイセイミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」 |
212 |
4 |
3〜4月 |
劇団文学座「初霜」 |
211 |
5 |
5〜6月 |
劇団俳優座「三屋清左衛門残日録」 |
212 |
4 |
9〜10月 |
こまつ座「兄おとうと」 |
212 |
5 |
11〜12月 |
劇団民藝「静かな落日」 |
213 |
3 |
以上:圧倒的な支持を得たということで、11月4日(木)の幹事会で、上記の作品を2009年の例会にしていくことを確認しました。また、同じく7〜8月例会もNLTの『ハーヴィーからの贈り物』を例会にしていくことで確認しました。 |
■ブロックの例会企画づくり
2009年の例会企画づくりの活動で、あらためて浮き彫りにされたのは、統一例会をつくり上げていく難しさです。困難にしている原因のひとつは、会員数の減少によって厳しい財政状況の中で会を運営していかなければならず、6例会すべてを足並みを揃えて例会にしていくことができなくなった団体が生まれてきてしまったことです。さらに、ブロック17団体の内には、統一のために財政的に援助する制度も枠組みもありません。組織活動の前進が見られない以上、これからも統一例会をめぐる問題は困難を極めるばかりです。
こうした時期だからこそ、もう一度、ブロックでつくる演劇鑑賞運動の意義やブロック統一例会の有効的な意味について考えていくことが必要になってきました。ブロック統一例会の実現は、ブロック全体で運動を進めていく決定的な跳躍点になったことはまちがいありません。しかし、同じ例会作品に取り組みながらも、その作品に対する魅力や期待をブロックの中で共有していくことが不十分だったと思います。運営サークルの活動についても、それぞれの団体の問題点を探り出し、解決していく討論と経験交流が充分に行われてきたとは言い難い面があります。活かし切れていない部分を整理していきたいと思います。
また企画づくりの中でも、「企画参考資料」 などは、劇団から提出された作品を全て掲載するのではなく、もう少し作品を絞り込んで資料を「参考資料」としてではなく、サークルで話し合うための「討議資料」として作成していくことも検討していきたいと思います。鑑賞会も演劇の創り手の一員として、魅力溢れるラインナップを創り上げていきましょう。 (幹事会)
例会に要望したい作品を6本選ぶアンケート結果
- 『ミュージカル『はだしのゲン』木山事務所 (62)
- 『6週間のダンスレッスン』シーエイデイブげユース(58
- 『アンナ・カレーニナ』エイコーン (48)
- 『東おんなに京おんな』トム・プロジェクト(48)
- 『ェキスポ』加藤健一事務所(38)
- 『ステッビング・アウト』ピュアマリー(36)
- 『紙屋悦子の青春』新人会 (35)
- 『十二人の怒れる男たち』俳優座劇場(34)
- 『族 譜』青年劇場 (34)
- 『五重塔』前進座 (34)
★中部北陸ブロック会議で、2009年の例会ライン・アップすべてが決まりました!
1月
(第208回例会) |
劇団スイセイミュージカル公演
「サウンド・オブ・ミュージック」 |
作/リチャードロジャース、オスカー・ハマースタイン二世
演出/西田直木、出演/中村香織、相原奈保子ほか |
3月
(第209回例会) |
劇団文学座公演
「初 霜」 |
作/川崎照代、演出/藤原新平
出演/八木昌子、倉野章子、早坂直家ほか |
5月
(第210回例会) |
劇団俳優座公演
「三屋清左衛門残日録
〜夕映えの人〜」 |
作/藤沢周平、脚色/八木柊一郎、演出/安川修一
出演/可矢口靖之、川口教子、荘司肇ほか |
7月
(第211回例会) |
劇団NLT公演
「ハーヴィーからの贈り物」 |
作/メリー・チエイス、演出/グレッグ・デール
出演/寺泉憲、川端慎二、木村有里ほか |
9月
(第212回例会) |
こまつ座公演
「兄おとうと」 |
作/井上ひさし、演出/鵜山仁
出演/辻萬長、小嶋尚樹、大鷹明良ほか |
11月
(第213回例会) |
劇団民藝公演
「静かな落日〜広津家三代〜」 |
作/吉永仁郎、演出/高橋ラ看祐
出演/樫山文枝、伊藤孝雄ほか |
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■干葉茂則さんへのインタビュー
9月例会 劇団 民藝 「明石原人」 直良信夫 役
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今回は主役の直良信夫を演じていらっしゃる千葉茂則さんにお話を伺いました。
Q、高校の時、学校行事でお芝居を観て俳優の道に進まれたとか?
A、そうなんです。今は上の学校へ進学する方が増えているけれど、自分のやりたい事が見つからずにいるよりは、十七・八の時に進むべきものに出会えて幸せだと思いますね。その芝居が、民藝の「銀河鉄道の恋人たち」でした。
お芝居のこととは無関係で小さい頃から野球ばかりの生活で、他のことに興味が持てなかったし、進学か就職するかという時期にお芝居と出会ってしまった。17・8だからまだあまり世の中のこと知らないけれど、自分のまったく知らない世界があるという感激・衝撃がものすごくありました。
だからつくづく思うんです。お芝居の持っている深さというか?芝居を観たことで一生が決まってしまったという影響があると思う。お芝居を演じてそういうことが会員さんに伝わればいいのにと思っています。
Q、秋田出身なのに、東京の工業高校というのは?
A、父が出稼ぎで先に東京に出て、後で家族を呼び寄せたという形で、小学校へ上る前に上京した。言葉に関してはあまり苦労したということはありません。今では、一つぐらい方言が出来る方が良いと思えるほどです。
Q、「民藝」はお茶の飲み方や箸の上げ下げにまで指導されるといわれていますが、どうでしょうか?
A、特別に困るようなことはありませんでした。知らない世界に飛び込んで、言われることをどのように咀嚼して出来るかが、自分の中では大きな問題だったから、なかには不思議だなと思うこともありましたが、幸いにも野球をやっていたので上下関係に関しては、あまり違和感もなく拒否するような感覚はなかったです。
それまで育った環境にしても、当時は、宇野先生や滝沢先生もお元気で活躍されていて、もう雲の上の人で前に出ると、緊張してましたねぇ。
だからと言うわけではないけれど、50も過ぎて世間で言われる中間管理職にあたるわけで、同期の人たちともよく話をするのですが、先輩たちの培って来たものを、適当な事でお茶を濁すようなことではいけないと、僕らが経験して来たことを、後輩に伝えなければいけないということが与えられた
仕事だねと。現実的にも、先の南風さんのように亡くなられると、いつまでも、先輩におんぶにだっこではいけないので、早く一人立ちして、後輩の面倒を見なければいけないと思います。
Q、宇野重吉先生、滝沢修先生の話が出ましたが、もうお一人、退団された米倉斉加年さんと三者三様の演技指導はどうでしたか?
A、お二人に関しては先程も言いましたが、雲の上の人で直接きびしいお言葉はなかったです。米倉さんの世代を通じて間接的に指導されましたから、その年代の方々がこわかったですね。唯、少しの間だけでもお二人と同じ時間、同じ空間を共有できたことは、幸せなことでした。
Q、「明石原人」についてですが、考古学についてどの位、掘り下げて役づくりをされましたか?
A、ごく普通の役づくりです。劇団の近くに遺跡があって、時間が控けば出かけて行ったり、直良さんに関する本を読んだりするということですね。このお芝居の性質上、専門的なことを会員さんに知ってもらおうという趣旨ではなく、皇国史観と学歴社会、そして副題にある夫婦の物語りの三つの要素、
その中でも僕の受け持ちは、夫婦の物語りの部分で、夫婦のみならず家族や友人関係の愛情が大事で後のテーマについては、観たお客さんが感じていただければ良いと思います。
Q、十一才年上の恩師と結婚するという実話ですが、その点に関しては如何でしたか?
A、劇団の中での関係と一緒のようなもので、日色さんは大先輩ですから、それこそ音先生と信夫さんの関係のようなもので自然体でやれました。実生活でも年上女房なので、すんなりはいっていけました。
Q、最後になりましたが、これまで演じた中で印象に残っている作品と、豊橋の印象はどうですか?
A、七年前の舞台で「アルベルト・シユぺーア」が印象深いですね。
割と翻訳劇が多いのですが、これからは、「明石原人」を書いていただいた小幡欣治先生の作品とか多くなっていくと思います。
豊橋へはあまり来ていないのでこれからいい関係を築いてゆけたら良いと思います。
≪編集後記≫
50をすぎても若手と言われる民藝にあって、中間管理職という言葉でご自分の立場をしっかり見据えておられる千葉さんでした。これからの益々の御活躍を祈念しています。 ZAO 森下いすず
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